イネWCS(ホールクロップサイレージ)籾の消化性の検討

1.はじめに
 全国の飼料イネの作付け面積は、水田農業経営確立対策の実施等により急激に拡大し、平成12年度の502haから平成15年度では約5000ha栽培されるに至っている。また、栽培地域に適合する新しい品種が次々と開発され、食料用稲と競合することなく栽培が可能となってきた。飼料用イネの収穫・調製においては専用機械がそれぞれ開発され、さらには尿素処理や良質発酵促進用乳酸菌など調製にかかる研究が進展し、良質サイレージが調製されるに至っている。これらイネWCSの乳牛への給与試験は全国各地域で実施され、チモシー乾草あるいは、スーダン乾草給与の場合と同等の泌乳成績が得られている。
 しかしながら、飼料イネはその籾部分の消化率が低く、消化性の改善が課題といわれている。また、イネWCSはその栄養価(可消化養分総量)の評価にあたって、消化率のデータの蓄積が少ないとも言われている。そこで今回は、近年国において開発され、栽培面積が拡大しつつある飼料用イネ品種「クサホナミ」をイネWCSとして調製し、乳牛を供試し、@イネWCSを切断(籾の切断効果)することによる消化率の改善効果、AイネWCSの消化率を求め、その栄養評価について検討した。
2.目的
  ○イネWCS籾消化率の改善(イネWCSを切断することによりその籾部分も切断されるので
    籾消化率が改善するか)の検討
  ○イネWCSの消化率を求て、可消化養分総量(TDN)を算出
3.材料および方法  
 1)試験実施時期・区の設定
   試験は平成15年6〜7月にかけて実施した。試験区は、イネWCSを切断し給与する切断区
   と未切断で給与する未切断区の2区を設定した。
 2)試験飼料
   供試した飼料イネは、平成14年5月22日に移植栽培したものであり、その栽培概要等を表
   1に示した。この「クサホナミ」は、黄熟期となった平成14年10月9日に牧草収穫体系の機
   械により刈り取り、予乾のうえイネWCSとして収穫調製した。施肥は、前回栽培時に刈取り
   直前の激しい降雨により倒伏したことから、倒伏を回避するため無施肥とした。
   切断区飼料は、調製したイネWCSを牧草裁断用ロールカッターで切断して給与した。未切
   断区飼料は調製したイネWCSを切断しないでそのまま給与した。現物給与量を設定するた
   め、貯蔵中のイネWCS数個からランダムに採取し栄養評価(一般飼料分析)をするととも
   に、イネWCSを供試牛の維持相当量を給与し、イネWCSの最大可食量を求め、これらを
   検討しそれぞれの牛の給与量を定めた。
    また、乳牛はルーメン内の分解性蛋白質が不足すると消化率が抑制されると言われて
   おり、これらの防止のため、必要とされる粗蛋白質濃度を維持するため尿素を添加給与(試
   算から1頭当り50g/日)した。飼料の給与は、毎日朝夕同時刻に試験牛にそれぞれ給与し
   た。切断区の飼料用イネWCSのロールカッター切断幅は設計最短幅(理論値9cm)とした。

イネWCSと切断機  

切断したイネWCSの断面
 3)供試牛並びに試験方法
   イネWCS籾の消化性の検討はホルスタイン種の乾乳牛6頭を選定し、その中から切断区、
   未切断区にそれぞれ3頭ずつを供試し、3期実施する反転試験法を実施した。消化率の算
   出、栄養評価には反転試験法の未切断区の数値を採用した。       
 4)イネWCS消化率検討方法
   消化率検討には、水洗法と澱粉法を併用した。
 5)調査項目
    調査項目は供試牛の体重、イネWCS乾物摂取量、イネWCS及び排泄糞の子実重量、子
   実粒数及び澱粉量の測定を実施し、これらからイネWCSの籾の未消化排泄割合、澱粉の
   排泄割合を算出した。イネWCS消化率算出に当たっては、その必要成分分析を行い、イネ
   WCS栄養評価(DCP、TDN)を行った。そして、試験牛の健康状態掌握のため血液検査
   を実施した。
 6)試料の採取保管
   試料の採取は、給与飼料は、毎日1kgを採取(籾重測定並びに澱粉、栄養分析用)し、給与
   試験終了後に分析した。排泄糞は全量採取(10%を水洗用、5%を澱粉分析並びに栄養分
   析用)した。澱粉分析は給与試験終了後に実施した。
4.結果および考察
 供試した飼料イネの収量性を表1に示した。供試した飼料イネ(クサホナミ)はその品種特性の
とおり、1,859kg/10aと高収量であり、また、穂重割合も47%と高かった。 試験開始に先立ちイ
ネWCSの栄養評価を実施したところ、水分53.3%,CP5.9%、CF29.3%、ADF34.0%、NDF
51.0%、TDN55.9%であった。このイネWCSを切断区にはロールカッターで切断して給与した。そ
の平均切断長は8.8cmであった。未切断区は切断せず給与した。供試牛への飼料給与量は、予
備期の給与から、各牛の最大可食量を求め、これらの量を検討し、それぞれの牛に残飼が出る
程度の量とした。その量は現物で15〜22kgであった。
 反転試験法による給与試験の結果を表2に示した。その結果、切断区での乾物摂取量は9.6kg
となり、未切断区では9.8kgであった。また、乾物排泄糞量は切断区で4.6kg、未切断区で4.5kgで
あった。
 次に、採取したイネWCS(表3)、排泄糞(表4)からそれぞれ籾重量割合、澱粉含有率、籾粒数
割合を求め、未消化排泄籾、未消化排泄澱粉、未消化排泄籾粒数を算出(表5)した。切断区で
は未消化籾の排泄重量比が11.7%、未切断区では10.5%であった。澱粉の未消化排泄率を比較
したところ、切断区で23.4%、未切断区で22.0%あった。また、粒数で比較したところ、切断区で
13.2%、未切断区で11.7%となり、未消化籾排出割合はいずれの手法での調査結果とも切断区が
やや高い値となったが、両区間に有意差は認められなかった。
 イネWCSの消化率の検討を行った。当所では県内自給飼料の成分分析を実施しているが、そ
れぞれの飼料の栄養評価に際しては、飼料中の成分を分析のうえ、日本標準飼料成分表の消
化率を適用し、この消化率によって可消化粗タンパク質(DCP)あるいは、可消化養分総量(TD
N)を算出している。
 しかし実際のイネWCSの消化率はどの程度かということは、試験事例も少なく、データも少ない
現状にある。このようなことから、今回は、籾の消化率の検討試験に併せて、未切断区の数値(3
頭の3反復、延べ9頭の成績)から消化率を求めた。その結果、栄養評価に必要な成分のうち、
それぞれの消化率は粗蛋白質46%、粗脂肪68%、可溶無窒素物(NFE)60%、粗繊維54%であ
った。この数値(表6)は、日本標準飼料成分表の消化率と比較すると粗脂肪、粗繊維の消化率
が高く、粗蛋白、NFEの消化率が低い結果となった。
 これらから、CP、TDNを算出したところ、CPで6.1%、TDNで52.2%であった。稲発酵粗飼料生
産・給与マニュアルではイネWCSの栄養価はCPが6〜7%、TDNでは50〜55%程度としており、
今回の分析値(表7)はやや低い値であった。
 このことは、飼料イネの収穫機械の影響が大きいと考えられる。その理由として表1の収量性調
査に示したように、収量調査では子実の割合が47%であったものが、給与時の籾の割合が約35
%(表3)であり、子実割合が低下している。これは、今回の収穫方法が、専用収穫機械によらず
牧草収穫機械を準用し、刈取りはモアで刈取り、予乾のうえ集草機で集草しロールベーラで梱包、
ラップ保管としたため、籾の脱粒が相当量あったと推定される。このことに起因して、栄養成分が
低くなったと考えられる。
5.まとめ
 イネWCSの切断による未消化籾の消化性の改善については、水洗法よる排泄糞中の籾の重
量割合及び粒数での消化性の比較、さらに澱粉法による消化性の比較を実施したが、いずれの
手法とも切断区と未切断区に有意差はなく、イネWCSの切断による籾の消化率の改善は、期待
出来ないことが判明した。
 イネWCSの成分分析と消化率を求め栄養評価したところ、日本標準飼料成分表等で示されて
いる数値より低い値となった。
 今後、耕畜連携による飼料イネの作付け拡大、さらには、収穫調製し、家畜へ安定的に給与す
るためには、行政的支援策を最大限活用し、イネWCSを過大に評価することなく家畜へ給与され
ることを期待する。