移行期の蛋白質水準が産乳と繁殖に及ぼす影響(経産牛)                         
1.はじめに
  乳牛の分娩前後の時期は、出産とそれに引き続き産乳が始まり、生産サイクルの中で最もボディコンディションが変化します。特に乳牛の乾乳期のうち分娩3週間前から分娩までは移行期と呼ばれ、乳牛の体内では分娩に向けて胎児の急成長や代謝機能の変化が起こるため養分要求量が急増するとともに、この時期の栄養摂取量が分娩後の乳量の立ち上がりや繁殖性に影響するとれています。しかし、この時期の蛋白質水準については、国内外で研究が少なく明確な指針がないのが現状です。
  そこで、経産牛の移行期の蛋白質水準が産乳と繁殖に及ぼす影響について検討するため、当研究所及び全国10府県・研究機関が共同して試験した結果を報告します。

図1 試験区の設定

試験風景
2.試験の結果
 @)分娩前3週から分娩までの期間に蛋白質含量の高い飼料(15.3%)を給与した
   場合(高CP区)と蛋白質含量の低い飼料(12.7%)を給与した場合(低CP区)に
   ついて、飼養成績、産乳成績及び繁殖成績を調査しました。(図1)
 A)飼養成績は、乾物摂取量及びTDN摂取量に両区に差は有りませんでした。TDN
   充足率は、分娩後の高CP区で100%を若干下回る結果となりました。(表1及び
   表2)
 B)平均乳量、FCM乳量及びSCM乳量は、高CP区が低CP区に比べ2〜3s/日多
   い傾向を示しました。(表3)
 C)授精回数は、高CP区が2.1回に対して低CP区は1.6回で良好な結果を示しま
   した。また分娩から20週までの受胎率も高CP区が31%に対して低CP区が56%
   で、低CP区が良好な結果を示しました。(表4)

表1 飼養成績(分娩前)
表2 飼養成績(分娩後)

表3 泌乳成績
表4 繁殖成績

3.まとめ
 経産牛の移行期(分娩3週前から分娩までの期間)の蛋白質給与レベルの異なる2つの区について試験した結果、乳量が高PC区40sに対して低CP区38sで高PC区が高い傾向にあり、 牛乳生産効率も高CP区45%に対し低CP区が42%と高CP区の方が高くなりました。
 しかし泌乳期の体重回復が低CP区より高CP区が遅い傾向にあり、繁殖成績も授精回数が高CP区 が2.1回に対して低CP区が1.6回、受胎率は高CP区31%に対して低CP区56%で低CP区が良好な成績を示しました。
 今回の試験から経産牛の移行期にCP含量の高い飼料を給与すると、産乳性の向上がみられることが示唆されました。しかし泌乳期の体重回復がやや遅い傾向にあり、繁殖成績が思わしくありませんでした。
 移行期の蛋白質栄養水準の違いが分娩後の産乳性や繁殖性に影響を及ぼすことから、この時期の給与飼料は、現状の繁殖成績や産乳性を考慮し適切な飼料設計に留意する必要があります。

この成果は、全国10場所協定研究によるものです。
参加県・機関は、茨城県(主査)、宮城県、福島県、埼玉県、静岡県、京都府、岐阜県、
鳥取県、熊本県、全国酪農業協同組合連合会及び独立行政法人農業技術研究機構
畜産草地研究所です。 

関連事項
 移行期の蛋白質水準が初産牛の産乳と繁殖に及ぼす影響