子牛の育成Q&A

Q1.生まれた仔牛が虚弱なのですが。
A1.初乳の給与
 子牛が母牛の乳から直接体内に取り込める抗体(病気に対する抵抗物質)は、生後半日以降急速に減少し、24時間ではほとんど吸収されなくなります。
 そこで分娩後はなるべく早く(1時間以内)初乳を飲ませます。但し、母牛によって乳に含まれる抗体量にはばらつきがあり、また、子牛が飲んでいる量もわからないため、初生時の事故が多い農家では、市販の乾燥初乳(含まれる抗体量が明確になっている)をほ乳瓶で飲ませることをおすすめします。飲みが悪いと思われる場合は融解する温湯の量を減らしてもかまいませんので、規定量の粉乳を確実に与えてください。
へその緒の消毒
 分娩直後にはへその緒を消毒しますが、この場合、へその緒を湯飲みのような容器に入れたヨーチンにドボンとつけ込むようにしましょう。スプレーするだけでは不完全です。多頭数飼育されている農家では、乳牛の乳頭消毒に使用するディッピング容器を使うと便利です。
貧血の予防
子牛は発育が早く、それに血液の産生が追いつかないため貧血になることがわかってきました。そこで貧血予防として、生後3日目の鉄剤およびビタミン剤の注射をおすすめします。投与方法については獣医師におたずねください。
Q2.子牛の発育をよくする方法はないですか。
A2. 子牛の発育には大まかに3つのステージがあると思います。
1.生後3ヶ月齢までの哺育期、2.生後5ヶ齢月までの移行期、3.子牛市場までの育成期です。
1.「哺育期」は、第1胃(ルーメン)の発達も弱く、食物をもっぱら4胃(腺胃)で消化しています。成牛のルーメン内では乾草、ワラなどの粗飼料を発酵分解して、そこから出てきた揮発性脂肪酸(VFA:プロピオン酸、酪酸、酢酸)を胃壁の絨毛からエネルギー源として体内に直接吸収していますが、この時期の子牛ではルーメンも絨毛も発達しておらず、乾草の多給は意味がありません。近年米国において、子牛500頭以上のルーメンを調査して明らかになったことがあります。
左図は「寺田ほか、栄養生理研究会報、1970」
 それは、ルーメンの絨毛を発達させるのはVFAで、乾草ではないということです。左の図は生後4週齢の子牛のルーメンでミルクと乾草のみ給与したものと、スターター(濃厚飼料)を給与したものの比較です。





左写真は「http://www.das.psu.edu/dcn/index.html」から引用










左写真は「http://www.das.psu.edu/dcn/index.html」から引用
 さらに、12週齢ではスターターを給与したものは絨毛が発達してきているのに対し、ミルク、乾草のみのものではほとんど発達していません。
 このように、早い時期からルーメン絨毛を発達させてやることは、その後の発育に大きな影響を及ぼします。生後3日目頃からスターターを数粒ずつ口の中に押し込んでやり、スターターの味に慣らすことは非常に有効です。
左写真は「http://www.das.psu.edu/dcn/index.html」から引用
 この時期は乾草よりスターターをいかに食わせるかが問題です。(ほとんどの農家が給与されている量では少なすぎると思います。徐々にではありますが、どんどん増やしてください。タンパク質が多いことによる軟便は問題ありません。食餌性の軟便と、病的な下痢を見分けましょう。)また、嗜好性は非常に重要ですので、食いつきのよいスターターを給与してください。(このことを教えてくれた500頭あまりの子牛に心から感謝し、冥福を祈りたいと思います)
2.「移行期」は、濃厚飼料、粗飼料の摂取量とも急速に増加し、ルーメンの容積がどんどん大きくなっていく時期です。1の時期で順調に絨毛形成がされていれば、離乳もスムーズに出来、特に問題なく発育すると思います。
 また、去勢を行う時期であり、当研究所ではワクチン接種も行っています。
左写真は「http://www.das.psu.edu/dcn/index.html」から引用
3.「育成期」は体もどんどん大きくなり、出荷に向けての最終仕上げという、非常に重要な時期になります。と同時に、商品価値を大きく左右する尾枕が付着しやすい時期でもあります。
 肥育農家に嫌われる尾枕や、腹腔内脂肪は一般に生後7ヶ月以降に付着するといわれていますが、当研究所のように安福系の血液の濃い牛については5ヶ月くらいから付着してくるようです。そのため、5ヶ月以降の1頭1日当たりの育成飼料給与量は3s程度に抑えつつ、粗飼料はほぼ飽食に近い量を給与しています。育成飼料の3sは推奨量の3分の2程度ですが、3ヶ月齢までの管理が適切で絨毛が発達していれば粗飼料の利用効率が高く、発育に何ら問題はありません。結果として、尾枕も付かず肋張りのよい、購買農家に喜ばれる素牛になります。
 以上のように、子牛の育成は、3ヶ月齢までが勝負といってもいいのではないかと感じています。
Q3.濃厚飼料をなかなか食べてくれませんが、どうしたらいいですか。
A3.生後3日目ぐらいからのスターター給与
 生後3日目ぐらいから、スターターを数粒口に入れてやり濃厚飼料の味に慣れさせ留と早くからスターターを食べるようになるようです。すぐにはき出すからといってあきらめずに気長に続けてみてください。また、嗜好性は非常に大切ですので、少しでも嗜好性のよいえさを見つけることも重要です。
 この時期乾草はほとんど必要ないので、乾草の給与は、敷料を食べない程度に押さえ、出来るだけスターターを食べさせるようにしてください。
Q4.子牛に与える乾草はどんなものがいいですか。
A4.柔らかい良質な乾草
 3ヶ月齢までの子牛の胃粘膜は大変デリケートです。出来るだけ柔らかい良質な乾草を細断して与えてください。
 与える乾草は、チモシー、アルファルファ(堅い茎は取り除く)など、栄養価が高く、Caを多く含むものがいいです。アルファルファは下痢をすると敬遠されますが、タンパク質含量が高いために軟便になることが多く、病的な下痢と区別することが重要です。
Q5.いろいろな生菌剤が出ていますが、給与した方がいいでしょうか。
A5.生菌剤の常時給与は下痢予防や発育性によい影響があります。余裕があれば検討されるとよいと思います。但し、短期間で効果が現れることはほとんどなく、長期間続けることが重要です。
Q6.子牛の冬の管理はどうすればいいですか。
A6.一般に牛は寒さに強いと思われています。確かに乳牛では、常時1キロワットの電熱器と同等の熱を体表面から放射しているといわれているほどです。
 しかし、子牛は寒さに非常に弱く、酪農では、気温が20℃を下回れば初生子牛に対し、保温対策を図ることが奨励されています。
 当研究所では冬期間、床に厚さ3センチ程度の発泡ウレタン製断熱マットを敷き、上部から電気ヒーターによる保温を行っています。
対策前は子牛がバラバラに寝て、見るからに寒々とした印象を受けましたが、対策後はヒーターの下で寄り添って寝ることにより、お互いの体温でさらに暖め合い、非常にリラックスしている様子が見られます。
 また、冬期間の重篤な肺炎、下痢による事故は今のところありません。
マットまで敷かなくても、すきま風対策とヒーターを設置し、その下に厚めに敷き料を入れるだけで仔牛の飼育環境は劇的に改善できます。是非お試しください。
 また、風邪の早期治療も重要です。最近「群治療」ということが提唱されています。すなわち、現在症状を現している子牛の周りにはその予備軍がおり、その群れ全体を治療し蔓延を防ぐというものです。
 咳を始めた子牛が2・3頭認められたら、早めに獣医師に相談し、その子牛群全体を治療します。最近1回の治療で高い効果のある薬があります。
 下痢についても早期に獣医師に相談しましょう。但し、スターターの多給による軟便と下痢の区別をしっかりしてください。一般に色調異常や臭気異常を伴わないものは単なる軟便の可能性が強いと思われます。
Q7.畜舎の換気が重要と聞きますが、厳寒期でも必要ですか。
A7.可能な限り換気しましょう
 牛舎に入ったときにアンモニアで目がチカチカする時があります。子牛の頭はさらに床に近いところにあり、体の割に呼吸器の小さい牛にとってアンモニアの悪影響は計り知れません。病原体に対する抵抗力はもとより、発育にも多大な影響があります。すきま風対策、スポット暖房対策をした後は、厳寒期でも可能な限り牛舎の換気をしましょう。