黒毛和種繁殖雌子牛のボディコンディションコントロール型育成方法について

畜産研究所飛騨牛研究部

             主任研究員 傍島英雄

【はじめに】
 岐阜県内では「飛騨牛」の母牛である黒毛和種繁殖雌牛が8000頭ほど飼養されています。その繁殖雌牛の適正な育成方法の確立をめざし、畜産研究所飛騨牛研究部では平成11年から平成14年までボディコンディションコントロール型雌子牛育成法の確立に関する試験(試験1 子牛市場からの導入牛の場合、試験2 離乳後からの導入牛の場合)を実施しました。
【試験の背景】
 繁殖雌牛は子牛の生産で「1年1産」が目標とされていますが、現在の岐阜県内の黒毛和種繁殖雌牛の平均分娩間隔は420日と効率的な子牛生産には程遠いものがあります。その一要因として雌子牛への高栄養飼育による繁殖機能の低下が考えられます。育成期の高栄養がその後の繁殖成績や哺育能力に悪影響を及ぼすことは過去にも報告されていますが、具体的に農家の子牛生産技術の改善につながっていないのが実状です。
 また農林水産省から出されている肉用牛の日本飼養標準の最新版(2000年版)において「飼養標準における養分要求量は体重と増体を基本としていることから、各生産地や種雄牛の系統特性に合わせた、きめ細かい飼養方法を確立することが生産効率向上に有効である」と断りが述べられているように、黒毛和種は各県レベルで遺伝的背景に大きな違いがあり、また同じ岐阜県においても例えば「安福」以前と以後では大きな違いがあることから、その系統特性に合わせた飼養管理が重要となります。
 そのような背景から本試験では、体脂肪の蓄積程度を表現するボディコンディションスコアを利用することで栄養状態を常に意識して飼養管理を検討し、岐阜県の系統特性にあった適正な雌子牛育成方法を確立することをめざしました。
 それは簡略に述べますと、いかに肥やさずに大きくするかという育成であります。
【ボディコンディションスコア(BCS)の見方】
 ボディコンディションスコア(BCS)は1970年代の後半から米国で牛に応用され出し、国内ではその概念を導入した栄養度判定が1989年から和牛登録検査の際に採用されるようになりました。いくつかの改訂を経て現在では、背骨・肋骨、き甲、腰角・臀部、尾根部の4区分を触診し、それぞれに9段階のスコアをつけ判定しその単純平均から栄養度を求めています。1〜3を「やせている」、4〜6を「普通」、そして7〜9を「太っている」と表現します。黒毛和種牛においてBCSは皮下脂肪の厚さをよく反映していることが報告されています。
【試験の摘要】
 試験1では子牛市場から導入後、粗飼料のみで育成し、飼料蛋白質水準が異なる2処理区(A区:飼養標準に対してCP充足率80%、B区:同充足率100%)の雌子牛の発育性、繁殖性について調査しました。 両区の体高はほぼ同程度に推移し、導入から分娩の始まる21ヶ月齢までの体重の推移には有意差は見られませんでしたが、妊娠期間および分娩後4ヶ月のBCSはB区が有意(P<0.05)に高いスコアで推移しました。
 繁殖成績については、分娩後初回発情日数と産子90日DGにおいて、B区の方が有意(P<0.05)に優っていました。A区B区ともほぼ「1年1産」(A区369±25、B区354±24)の成績を得たことにより、黒毛和種繁殖雌牛の育成が粗飼料のみの給与でも可能であることが示されました。
 試験2では子牛市場出荷前(10ヶ月齢以前)から濃厚飼料給与量を管理することで、より良好な繁殖成績が得られるのではと考え、離乳時(約5ヶ月齢)から濃厚飼料給与量に差をつけた2処理区(C区:濃厚飼料多給、D区:濃厚飼料制限)の発育性、繁殖性を調査しました。体高、体重等の発育性ではC区が有意(P<0.05)に優れていました。分娩を境にしたBCSの推移では、分娩前、分娩後ともにC区がD区よりも有意(P<0.05)に高く推移しました。繁殖性では、分娩間隔(C区375±66、D区344±17)等でC区が優れる値がみられましたが、C区に死産が2頭あった影響もあり誤差が大きく有意差は得られませんでした。これらから、体高等の体格を考慮した上でのBCSのコントロールが繁殖性向上に有効であることが示唆されました。

詳細は岐阜県畜産研究所研究報告第3号(平成15年7月)に掲載

試験を実施した牛舎の様子です。

「つなぎ運動」を行っているところです。毎日2〜3時間正姿勢で立たせるというダイエット運動です。

ディコンディションスコアの参考に2頭の例を示します。

こちらは「BCS7」の試験牛です。ちょうど出産を4日後に控えています。

こちらは「BCS5」の試験牛です。

ともに第8回和牛能力共進会で活躍した「光平福」を父に持つ雌牛です。

乳量測定の様子です。

母子を一定時間隔離します。柵越しですと母牛がピッタリと体を寄せて子牛に乳を与えてしまいますので、隙間のない戸で隔離します。

子牛の体重測定です。

哺乳する前後に測定した子牛の体重差が飲んだミルクの 量として算出できます。「体重差法」と言われる測定方法です。